補聴器をつけ始めて数日後。少しずつ「つけている状態」に慣れてきたところで、日常生活での音の違いに気づくことがあります。
お客様からよく伺う意見として、「声が今までと違うように聞こえる」というものがあります。“音の大きさ”が変わるのは何となくわかるけど、“違う音”に聞こえるのは、確かに少し不思議ですよね。何故なのでしょうか?
今回は、声の聞こえ方の違いについて、3つの事柄から考えてみようと思います。
まず1つ目、「難聴」の種類について紹介します。
難聴は「①感音難聴」、「②伝音難聴」の2種類に分けられます。
「①感音難聴」は、音を感じる・キャッチするセンサー(神経)の部分の障害が原因で起こる難聴です。
「②伝音難聴」は、音を伝える道の途中に発生した障害が原因で起こる難聴です。
ちなみに、2つが同時に起こった場合は「③混合性難聴」と呼びます。
「①感音難聴」の場合、聞こえ方に下記のような変化が起こります。
▷聞こえる音の大きさの範囲が狭くなる
▷聞こえる音の高さの範囲も狭くなる
▷聞こえる音の鮮明さが低下する
続いて2つ目、人が発する「言葉」についても少し注目してみましょう。
日本語には、母音と子音がありますね。日本語の文字は、母音と子音の組み合わせでできています。
この母音と子音は、音声にして比較すると、成分に違いがあります。
▷母音は(子音と比べて)音量が大きく、低い音
▷子音は(母音と比べて)音量が小さく、高い音のものが多い
全ての文字が同じ高さ・音量ではないというわけです。
これは、言葉を聞き取る時に大きく影響してきます。聞こえる範囲が狭くなると、知らないうちに聞こえない部分が出てきます。その結果、聞こえ方に変化が起こります。
最後に3つ目、音をキャッチする「脳」についてお話しします。
私たちの脳は、生活する中で聞こえてくるいろいろな音の中から、必要な音を選別しています。不要な音(雑音など)は、無意識に“聞かなかったこと”にしています。これは「やるぞ!」と思ってやっているわけではないので、気付きません。
この選別は、誰もが自然に行なっていることですが、機械のようにすぐできるようになるわけではありません。何回も行うことで、だんだん慣れていくのです。
難聴などの原因で聞こえる範囲が狭くなると、脳はその状態に慣れていきます。それが“普通”になるのです。
そこに補聴器というお助けアイテムで聞こえる範囲を増やすことで、脳はびっくりして、勘違いしてしまうことがあります。知っている人の声が知らない人の声のように聞こえてしまうのも、この勘違いのひとつです。
初めのうちは、びっくりや勘違いを繰り返します。その後しばらく補聴器をつけた状態(=よく聞こえる状態)を続けて慣れることで、今度はそれが“普通”になっていきます。変わったように聞こえた声も、だんだん気にならなくなります。やがて、『聞こえてくる声=話している人の声』と、脳がとらえるようになっていきます。
さて、長くなってしまいましたが、難聴・言葉・脳について、3つのお話をしました。
これらのことが重なり合い、聞こえ方が変わったことで、「声が変わった」という感想に繋がるのではないか、と考えられます。
ですが、聞こえ方に変化があるということは、聞こえる範囲が増えているということです。「新しい状態に脳が慣れ始めているところ」ということでもあります。これは良い変化であると言えるのではないでしょうか。
補聴器は、難聴を治療するものではありません。つけていることで、症状が良くなるわけではありません。
しかし、日常生活をより豊かにする、楽しい時間を過ごすのに、役に立つ道具のひとつです。
最近の補聴器は、少しでもはっきりと聞こえるようにするために、様々な機能が備わっています。全てに対応しているわけではありませんが、雑音を取り除いたり、音を強調したり、音量以外にも調節できることがいろいろあります。
自分の体と上手に付き合うために、いろいろな方法を試してみるのもいいのではないでしょうか。補聴器が、そのお手伝いになれば幸いです。