【第30回 2022年(令和4年)3月1日(28日発行)】
みなさんは「耳垢(じこう)栓塞」という言葉をご存じでしょうか? 読んで字のごとく、耳垢が過剰にたまって耳の穴を塞いだ状態のことをいいます。耳垢栓塞があると、その状態によっては数デシベル~最大約40デシベルの難聴が生じるともいわれています。
ある報告によると高齢者の1割は耳垢によって聴力が低下している場合があるとのことです。また耳垢は認知機能とも関係があるとされています。難聴によってコミュニケーション能力が低下し、認知機能を悪くする可能性があるからです。アメリカの高齢者向け施設での調査では、耳垢を取ることで聴力とともに認知機能が改善された人もいたそうです。
以前、耳が聞こえにくいと相談に来られたお客さまがおられ、耳の中を観察したところ、鼓膜が確認できないほどの耳垢! 近くの耳鼻咽喉科を紹介し、受診。耳垢をごっそり取ってもらうと、その途端に聞こえが良くなり、結局、補聴器をつけなくてもよかったなんてこともありました。
このように耳垢がたまり過ぎると難聴の原因になることもありますが、とはいえ、適度な量の耳垢は、細菌に対する防御機能や皮膚表面を保護する作用もあります。それにもともと外耳道には、耳垢を外へ押し出す自浄作用があり、本来なら耳掃除はしなくてもいいともいわれています。ただ、高齢になると、新陳代謝が鈍くなったり、自浄作用が弱まったりし、前述のお客さまのようになるわけなのです。それならやっぱり耳掃除が必要なのでは、と思う方もいるかもしれませんが、必要以上に耳の中をかいてしまって皮膚を傷つけたり、思わぬ出血をしたりして、危険なこともあります。高齢者では、血液がサラサラになる薬を飲んでいる方も多いでしょう。もし血が止まらなくなると怖いですよね。
耳垢がたまりやすかったり、奥にたまった耳垢が気になる場合は、耳鼻咽喉科に相談しましょう。耳垢が詰まっていれば、点耳薬といって、耳垢を軟らかくする薬を処方してもらってから耳垢を取り除くことになるので、痛くはないですよ。1年に1度は耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。