【新聞掲載】補聴器をしたままお風呂に…という連絡に思わず「やった!」

2021.08.31

【第8回2021年(令和3年)8月31日(30日発行)】

「何歳ぐらいから補聴器をつけたらいいのでしょうか?」

 こんな質問をよく受けます。私の答えは「聞こえづらさを感じたら耳鼻咽喉科の補聴器相談医か、認定補聴器技能者のいる補聴器販売店に相談してみてください。そしてぜひ補聴器をつけた生活を始めてください」です。

 これは年齢に関係なく40~50代でも同じです。比較的若く、補聴器を始められた方がいます。

 それは、私が補聴器の仕事に携わって間もない頃。その方は高校生の息子さんを持つ50代の女性でした。衣料品の量販店で働いていて、仕事中にインカムによる指示が聞きづらく苦労されていました。また、反抗期真っ最中の高校生の息子さんの「ボソッと発した言葉も聞き取れない」と、どうやって向き合えばいいか、悩んでおられました。

 補聴器をつけてからの最初の1カ月は、補聴器をスムーズにつける練習を私と一緒に繰り返す日々。「不器用で、耳の穴がどこか分からない」「いつも補聴器をつけると違和感がある」と不安に駆られながら過ごされていました。

 しかし、それから1カ月ほどしたある日、「補聴器をしたままお風呂に入った」と慌てて連絡がきたのです。

 私は、その瞬間「やった!」と思いました。普通なら水に濡れて故障を心配するところですが、その時は真っ先にうれしい思いが勝りました。つけたことも忘れ、お風呂に入った。補聴器が体の一部になったからです。

 その後はもう補聴器が手放せなくなったよう。「息子が車の中で今日のご飯はハヤシライスが食べたいとボソッと言ったのが聞こえたんです」と話してくれました。

 仕事では、ヘルプコールがあれば真っ先に対応できるようになり、プライベートも仕事もアクティブに過ごせるようになったとのこと。

 補聴器は、ただ音が聞こえるようになる機械ではありません。人と話すことが楽しくなったり、人生をポジティブに楽しめるようになるひとつのツールだと考えています。

https://hc.nikkan-gendai.com/articles/276682