【第5回 2021年(令和3年)8月3日(2日発行)】
訪問診療医からの紹介で、76歳の男性Kさんから相談を受けました。
Kさんはタクシーの運転手をされていたのですが、65歳のときに隣に迫るトラックの音が聞こえなくなったことで仕事を引退。ですが病院で検査を受けることもなく、70歳の頃、集音した音の音量を上げるだけの機能しかない集音器を通販で購入。それも、いつしか使わなくなったそうです。
ところが最近になってどうにか解決したいという思いが強まり、当社に相談にいらしたのです。Kさんはかなり難聴が進んでおり、障害者手帳が交付される可能性が高かったため、耳鼻咽喉科への受診を勧めました。その診断結果を持って、区役所に申請。障害者総合支援法による費用の自己負担を軽減する制度を利用し、補聴器の購入費用の支給を受けることができました。
そんなKさんが当時を振り返ります。
「俺も補聴器を着けるまでは周りの人に失礼だった。話しかけられているのに、聞こえたふりをするのはつらかった。会話をしようとしても言葉が分からないから返事ができないし」
もともと人を笑わせる陽気なお人柄だったKさん。いまでは会話も聞こえ、笑いのある人生を取り戻したと言います。
「デイサービスも補聴器を着けた後は楽しくなったね。冗談も言えるようになったし、笑うようにもなった。こんなに人生変わっちゃうんだって正直驚いたよ。補聴器がなかったら死んでたかも」
補聴器でKさんは聴力を補うだけでなく、もっと大切なことまで気付かせてくれたと言います。
「これだけ大勢の人に支えてもらえて生きる力を与えてくれたということだね。ぜいたくは言えない。あと何年、生きるかは分からないけど、生き延びなきゃいけないなって」
補聴器には人に生きる勇気を与える力があると信じています。