「聞こえづらいから集音器を使っている」という話を聞くことがあります。また、値段が手頃だからと通販で集音器を購入して後悔し、中にはこの集音器が補聴器だと思い込み、難聴の克服を諦めたという話も……。
補聴器はその人の聴力に合わせ、大きい音は抑え、小さい音は大きくして、音を耳に届けます。突発音を抑制し、雑音の中で会話音だけを大きくするなど、微調整でさまざまな音の補正ができます。
一方、集音器は、マイクに集めた音を大きくするだけ。音の調整も集音器はボリューム調整しかできません。間違った使い方で聴力を悪化させる可能性もあります。ちょっとお試しで使ってみたいという方が集音器を使うことは否定しません。値段も手頃で、気軽に買えるメリットもあります。一番知っておいてほしいのは、補聴器と集音器は別物だということ。それを理解した上での選択肢としてください。
では、どうして補聴器と集音器の違いが正しく伝わりづらいのか? それは、補聴器が医療機器なのに対し、集音器が広告表示の制限を受けない電化製品だから。集音器は「30倍よく聞こえる!」「だれにでもフィット!」といった広告も可能ですが、補聴器は、景品表示法や業界の適正広告・表示ガイドラインにのっとって広告をする必要があります。言い換えれば、正しい使い方をしなければ人体に影響があるくらい高い効能効果があり、だから正しく使うために厳しい制限が与えられるのです。
補聴器で生活が改善した70代の男性から、補聴器を持ちながらも使わない同年代のお友達の話を伺う機会がありました。
「友達にね、聞こえないと不便でしょう、着けたら楽しいよって言っても、聞こえなくてもいいって。耳に着けるのが嫌だって。彼には着けてもらいたい。この先の人生が全然違うから」
そう寂しげに語る口調が印象的でした。
補聴器への理解が進み、「補聴器=生活を支える頼もしいパートナー」と考える人が増えることを願っています。
(2021年8月17日公開 日刊ゲンダイヘルスケア 認定補聴器技能者 田中智子 連載より)
https://hc.nikkan-gendai.com/articles/276628