社会で活躍する高齢者が増えるにつれ、 補聴器のニーズも年々高まっています。それに伴い、難聴者の社会参加を後押しする補聴器関連技術も注目を集めています。その一例が「オーラキャスト」という通信システムです。
オーラキャストは、音声を無線で複数の受信機(補聴器やイヤホン)へ同時に配信できる技術です。接続方法もシンプルで、対応機器ならモードを切り替えるだけで直接音声を受信できます。
そのため現在では、会議室でのマイク音声、映画館やコンサートホールの音、美術館の音声ガイドなど、さまざまな場面で利用可能です。専用端末を借りる必要はなく、対応機能を搭載したスマホを持っていれば、そのまま音声ガイドを聞けます。また駅の緊急アナウンスなども、雑踏の中でもクリアに耳元で聞くことができるため安心です。広がりを見せている最大の理由は、補聴器を使う難聴者だけでなく、イヤホンを使う若者にも便利で共通に使えるシステムだからといえるでしょう。
さらに、健常者と難聴者の共生を促し、補聴器へのポジティブなイメージづくりに貢献する新技術として、Apple社のワイヤレスイヤホン「AirPods Pro2」の「ヒアリング補助機能」があります。同社によれば、これは軽度から中等度の難聴者向けの機能で、iPhoneやiPadで行ったヒアリングチェック結果をもとに、聞き取りにくい音だけを増幅する仕組みです。補聴器に近い役割を果たすといえるでしょう。 もともとAirPods Pro2には、イヤホン難聴を防ぐために大音量を抑制したり、音楽の使用時間や音量をiPhoneで確認できたりする“耳の健康を守る機能”が備わっていました。今回のヒアリング補助機能は、その延長線上にある進化版といえます。
耳鼻科医の中には「軽度の加齢性難聴ならAirPods Pro2の装用を勧める」という意見もあります。ただしバッテリーの持続時間が最大6時間と短いこと、日本での機能がまだ限定的であることから、現時点では補聴器の完全な代替には至っていません。それでも、こうした補聴器周辺技術の進化によって、補聴器を使うハードルが下がることが大いに期待されます。 =つづく
(2025年8月28日公開 日刊ゲンダイヘルスケア 認定補聴器技能者 田中智子 連載より)