【新聞掲載】最愛の娘を亡くし生きる気力や聞く欲求を失っていた女性が…

2023.02.14

【第73回 2023年(令和5年)2月14日(13日発行)】

 補聴器によって生き方が大きく前向きに変わった──。そんな話を聞くことは珍しくありません。さまざまな人生の転機に補聴器の存在があり、日々それに立ち会わせていただいています。

 最近、70代の女性が息子さんとご来店されました。ご本人は乗り気でない様子。それでも息子さんの熱心なサポートで補聴器を試していただくことになりました。

 調整を重ねるうちに、少しずつご自身のお話をしてくれるようになりました。聞けば半年前、長く病気療養中だった最愛の娘さんを亡くされ、ショックで生きる気力を失いかけていたといいます。もう音なんて聞こえなくていい、今は静かだからそのままでいいんだ、もう生きていたくないとも思っていたと……。

 でも、息子さんのサポートもあり、お試し期間中に補聴器を日々つけてくださるようになりました。感想をメールで送っていただくようにお願いしているのですが、日を追うごとに「今日の会食時、離れた席の男性の声が聞きづらかった」「タクシーで運転手さんとやりとりが難しかった」といった感想が増えました。

 これは別の見方をすれば「こういうシーンで聞きたい」という気持ちの表れ。前向きなメッセージです。その都度、対処法や次回の調整の課題などを返信しました。

 「感想を送る」という行為自体、ご本人にとって負担のはず。つらさを抱えながらも送ってくださることにありがたさを感じてやりとりを続けていました。それを重ねるうちに、徐々に、もっと家族と話したい、人と会話を楽しみたい、と少しずつ思えるようになってきたといいます。

 そしてお試し期間を終え、補聴器を購入された際には、「始める前はこんな気持ちになれるとは思わなかった。もう一度人と話したいと思えるようにしてくれて本当にありがとう」とおっしゃってくれたのです。そのお顔は、胸にグッとくるものがありました。

https://hc.nikkan-gendai.com/articles/278721