【第42回 2022年(令和4年)6月7日(6日発行)】
補聴器の第一の役目はなにかといえば、会話を今よりスムーズにすることだと言えます。しかし、補聴器の役目はそれだけではありません。“音が聞こえる”というのもまた、大事な役目です。日常生活には会話だけでなくいろんな音があふれているからです。
とりわけ安全な生活をサポートする音に、アラームや警告音があります。自宅にいれば玄関チャイムや冷蔵庫のドアの開放を知らせるもの。また外に出れば、後ろからくる自転車のベルの音、車の走行音など、直接危険を知らせる大切な音もあります。
そんな補聴器の役割を改めて考えさせられた、ある50代後半の男性のお客さまがいらっしゃいました。
その方が初めて聞きづらさを自覚されたのは中学校の頃。こんなものかと思いながらずっと過ごしてきたといいます。それが60歳を前にして、より聞こえづらくなってきたということでした。
聴力を測ってみると、低い音は正常なのに高い音の聞こえが極端に落ちていることが判明。なるほど低音域は聞こえていてなんとか日常生活が成り立っていたために、これまで積極的に対処してこなかったけれど、加齢により聴力低下が進み、聞きづらさが際立ってきたというわけです。
そしてそれから補聴器をつけて約3カ月間のトレーニングを終え、ようやく慣れてこられた頃にご本人からこんな感想をいただきました。
「最初は普通に会話ができればいいなぐらいに思っていたのですが、ある時に予想外にも車のウインカーを出す時のカチッという小気味いい音が聞こえた時は、日常の中にこんなに音があふれていたんだということに気づかされました。今度ゴルフに行くのでドライバーの打球音がどのように聞こえるか楽しみです」
警告音だけでなくささいな音も、その人の世界を広げ人生を豊かにする大切な音です。そんな音が聞こえるように手助けを補聴器はしてくれるのです。