難聴と脳の働き

2020.06.13

難聴と脳の働き

実際に音を聞いているのは、脳です

耳から届いた音声情報は電気信号として脳に伝わります。
この電気信号は、音の高さ(周波数)、音の大きさ(音圧)、音の音色などの情報です。
この情報が、脳に蓄積されている声や言葉のパターンと照合されることで、意味のある音として認識することができるようになります。

例えば、初めて会う人の声を聞いても、その声がだれの声かは判別できないでしょう。
しかし、家族や知人など身近な人の声を聞くと、顔を見なくてもどの人の声なのかを判断することができる、という経験はありませんか。

これは、身近な人の声は、高さや声色などがインプットされ脳に蓄積されているからなのです。
しかし、初対面の人の場合、声色や高さなどその人の声の情報はデータベース化されていません。
そのため、データベースと照らし合わせることはできず、誰の声かを認識することはできないのです。

加齢性難聴などで聞こえの状態が悪化すると、脳に届く音の情報が減ってしまいます。
そのため、脳内に蓄積されたデータベースと照らし合わせることが難しくなり、言葉や音を認識するのに時間がかかってしまうようになります。
また、加齢などによって音の情報の時間的な変化を分析する力が低下していきます。
そのため、音が反響する場所や早口での会話などでの聞き取りが難しくなります。

人間は、完璧に全ての言葉を聞き取れているわけではありません。
会話の中で聞き取れなかった言葉もあります。
でも、全ての言葉を聞き取れていなくても、聞き取ることができた言葉をもとに、会話を類推してコミュニケーションを取ることができるのです。

耳から脳に伝わった音は、脳内で蓄積されたデータと照らし合わせられています。
そのため、何度も聞いたことのある音や声は聞き取りやすくなります。
例えば、外国語を習い始めたばかりの頃と、ある程度習得した頃では、聞き取れ理解している度合いは全く異なるでしょう。
それは、学習を繰り返すことで脳内のデータベースが蓄積されたからなのです。

難聴になると、さまざまな音が入らない状態に慣れてしまいます。
そして、補聴器を使い始めると、今まで聞こえていなかった音が聞こえます。
したがって、脳に伝わってくる情報量は増加します。
しかし、脳内で行う照らし合わせの処理はすぐに以前の状態には戻りません。
ある程度時間をかけて脳をトレーニングして、慣れていくことが、聞き取り能力の向上には不可欠なのです。