【第70回 2023年(令和5年)1月24日(23日発行)】
世の中には音があふれています。小鳥のさえずりや蜂の羽音、人間同士の会話、さらには自動車のエンジン音に建設現場の槌音(つちおと)と、音は日常生活を豊かにしてくれます。
もちろん、そんな音が聞こえなくても生活に支障はない、と考える方もいらっしゃるでしょう。でもそんな音を聞くことで脳は刺激を受けます。虫の声や木々のざわめきといったかすかな自然の音は心の安らぎにつながるかもしれません。
先日、2世帯住宅に娘家族と同居されている88歳の男性が、ご夫婦でお店にご相談に来られ、補聴器を購入されました。
聞こえが良かった時は、よくラジオで野球や競馬中継を聞いていたのですが、ここ数年はそれもしなくなり、家のインターホンも聞こえないので家に荷物の配達員が来ても気が付けない。家の中だけでなく外出時の動きも次第に緩慢になり、反応も鈍くなり始めたといいます。ご家族も、男性に話しかける際には大声を出さなければならず、会話はおいてきぼりにされがち、とのこと。
それが補聴器を購入後は、調整していくうちに音に慣れ、聞こえが改善されると、次第に日常生活の中で久しく忘れていた小さな音を聞く新鮮な体験をするようになったといいます。
ほぼ購入して1カ月がたったあたりで、まずドアのノックの音が以前より小さな音でも聞こえるようになり、テレビの音量が以前より小さくなっていきました。やがて2カ月目に入ると、散歩中に今まで聞こえていなかった落ち葉を踏む音や杖の音が聞こえるようになったといいます。そして家族とのコミュニケーションが以前より取れるようになり、周囲の方がその変化が分かるほどに。
補聴器を通しての音は最初こそ違和感を持ってしまいがちですが、「調整する」ことと「積極的に生活の中で補聴器を使う」ことで慣れていくもの。
先日いらっしゃった時には「いろんな音を楽しんでください、一緒にがんばっていきましょう」とお伝えしたのでした。